少しずつ縮まる距離、そして予感

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「トーイにはなんとかできても、他のメンツにゃ無理だ。本職おろそかにするわけにいかねんだからよ」  どうやら少し揉めている……というより、一哉くんが一方的に無理を言っているらしい雰囲気に、足を忍ばせてキッチンに行く。  まだお酒は入ってないらしく、つまみを開封した様子もない。打ち合わせ時は真面目なのだと、変なところで感心しながら水を飲む。 「……バンドだっておろそかににできねーじゃん……」 「一哉。今のスケジュールでは無理ですよ」 「なんで今日になって言い出すんだ。あ、……あれか? 涼ちゃんにいいとこみせてーのか?」  急に自分の名前が飛び出て、思わず大量に水を飲みこんで、小さくむせる。突然響いた音に一哉くんがキッチンの方を振り返る。気まずく視線がからみあって、一哉くんが先に視線をそらす。  その顔がかすかに赤く見えるのは私の気のせいだろうか。 「おお、涼ちゃん色っぺー! 水もしたたる、ってぇ!」  からかおうとしたらしい陣内さんの声が途中から悲鳴に変わる。 「エロジジイは黙ってろ」  一哉くんが脛を蹴り上げたらしく、うめいている陣内さんに思わず同情する。兄にじゃれつく弟という図だとしてもさすがに凶暴な気がする。でも瀬古さんはとめずに、二人の様子を静かに眺めているだけだ。その場の空気はとても穏やかで、私と出会うずっと前から一哉くんを取り巻いてきたのだと伝わってくる。  まるで兄弟だ。と思って、ふと瀬古さんと一哉くんがなんとはなしに似ていると気づく。顔の輪郭や切れ長の目。もしかしたら血がつながっているのかもしれない。 「涼さんすみません、お酒とおつまみ持ってきていただいていいですか?」  瀬古さんの言葉にコップを片付けると、料理やお酒やおつまみをトレイにのせて持っていく。 「って、司、新曲の話は」 「もう時間も遅いですから」 「は? いつもなら」 「涼さんもいるでしょう?」 「……っ! ……わーったよ」  私の名前を出されて、話を終わらせられた一哉くんのむっとしながら何も言えないような表情がかわいい。瀬古さんがリーダーだからなのか、意外に素直な一面に年相応な少年の姿を垣間見る。  ラグの上に車座になっている三人のもとにお酒を運ぶと、一哉くんがそれとなくスペースを作って、私の手からお酒や料理を受け取って置いてくれる。 「じゃ、初めましての涼さんと、今後の一哉に期待して」
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