少しずつ縮まる距離、そして予感

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「は? オレ? なんで」 「乾杯」  どこか含みのある言い方に私も一哉くんも首をかしげつつ、乾杯する。陣内さんがさっそく興味津々といった風で話しかけてくる。 「涼ちゃんって、あれだろ、あのライブん時の」 「あ、あはは、その節はすみません……もう忘れてください……」  さっそくビールをあおる陣内さんにもどうやら覚えられていたらしい。ストレートな言葉に自分でも赤くなるのが分かる。 「美人のOLさんがあれだけ潰れてりゃ、印象にも残るって」  陣内さんがもう一本ビール缶に手を伸ばす。飲むペースが早い。すでに三本目だ。どうやら三人の中では一番飲兵衛らしい。見ているこちらが気持ちよく感じるほど飲みっぷりがいい。家系的にお酒がけっこう強い私ですら、そこまで早いペースで缶を空けはしない。 「見ない顔だと思ってたんだけど、あんとき、どうしちゃったの?」 「あ、いえ……実は、その。通りがかった時に……」  どうしたかと聞かれてもとても正直には言えない。失恋してヤケ酒してましたなんて。かといってファンでもない。  普段は通らない道で、しかも入ったことのないライブハウスで、それまで知らなかったバンドだということを素直に白状する。 「え、マジ?」  それまで静かに話を聞いているだけだった一哉くんが驚いて隣の私を見る。 「ご、ごめんね。言う機会もなかったし……」 「涼さんが通りかかったのも、ドアが開いて一哉の歌が聴こえたのも偶然ってことですか」 「それまで殲ロザのこと、これっぽっちも知らなかったのか?」 「せんろざ?」 「私たちのバンド、殲滅ロザリオって言うんです」 「殲滅ロザリオ。すみません、最近の曲とか疎くて」 「なんも知らねーって……マジかよ……」  一哉くんがぼそりと呟く。ショックだったのか、泣き出しそうな切なそうな顔をして俯いている。なんだか悪いことをした気がして、慌てて一哉くんの方に向きなおる。 「でも一哉くんの歌、初めて聞いたけどすごくよかったよ。だから最後まで聞いてた。いつもならロックは素通りしてるもの」  ちらりと一哉くんが視線をよこす。その拗ねた色をともした瞳に、さざ波のように胸の奥がざわつく。どうしてこんな、女をくすぐるような流し目ができるんだろう。 「へえ……どんなところが?」  一哉くんが意地悪げな声で、その視線で問いかけてくる。
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