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「このままだとあんたの魔武器の能力を見れずに終わっちゃいそうだね」 相手は距離を取る。 能力を見せろってことか? いや、知らんし。 てか、そもそも魔武器ではなくお土産だからね。 彼女は本当に待っているようでナイフを上に投げたりして遊んでいる。 俺は能力を使う準備と見せ掛けて少しずつ距離を開ける。 そして彼女がナイフを投げた瞬間、湖に向かって走り出す。 「なっ!?逃げるな!」 彼女は投げたナイフを魔武器の能力を使い手に戻すと風の魔法を使いこちらに向かってきた。 俺は向かってくる彼女に構わず、湖の中を走る。 水が膝の辺りまでの深さになったところで止まり、両手を湖の中に突っ込む。 「残念だったね。そのくらいの浅瀬だったら、風で水を弾けるのさ!」 彼女のそれは、まるで水の上を走ってるようだった。 これは殺されたな。 でも、最期にやることがある。 俺は手に魔力を集中させる。 そして一気に放出。 俺を中心に水面は凍りついていく。 冷たさで手の感覚がなくなっていく。 俺の魔武器、いや、ただの漆の効果で手が痒くて仕方がなかった。 俺はこれから刺されて死んでしまうのかもしれない。 だが、それでも、最後に思ったことが痒いだなんて。 そんなのは死んでも嫌だったんだ! だから全力で魔力を放出し続ける。 手が冷えて気持ちが良い。 世界中の皆が痒い所を掻く気持ちよさを味わっていれば戦争なんて起きないのではないだろうか。 俺はそんな平和な事を思いながら死ぬのだな。 空を見上げる。俺の最後の日は晴天か。 悪くない人生だ。 「きゃっ!」 彼女が驚いた声を上げる。 何事かと思いそちらを向いた瞬間、彼女は滑って転んだのだろう。 凄い勢いでこちらに向かってくる。 避けようと思ったが手が凍りついてしまって身動きがとれない。 咄嗟に火を出し氷を溶かそうとしたが、間に合わず激突してしまった。 その拍子に氷は砕けて二人とも吹っ飛ぶ。 エアバックが無かったら死んでいただろう。 無心論者ではなくなった俺は顔をエアバックに埋めながら神様にお礼を言った。 そして、不自然にならないよう彼女を抱きしめて言ったのだ。 「俺は充分楽しめたよ」
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