物音

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物音

 俺のアパートと隣のビルはやたらと近い。  窓を開けたら目の前は壁。その距離およそ20センチ。  しかも、隣ビルの窓が、俺の部屋の窓より窓枠一つ分くらい高い位置にあるので、こっちから向うは見れないけれど、向うからなら覗けそうな位置。  女の子は住まないだろうし、男でも、神経質な奴は嫌がるだろう。  だけど俺はあまりこういうことを気にしない性質で、立地の分家賃が安いことが逆に嬉しいくらいだった。  どうせ今時、窓なんてそうそう開けることはない。冬場は閉め切りが当然だし、夏だって、窓を開けた程度じゃ涼は取れない。虫が入ってくるのが関の山だから、クーラー効かせてやっぱり閉め切り。  そんな、あってもなくてもどうでもいい窓だから、カーテンすらかけずに放置していたんだが、最近、その向こう側がちょっと気になり出した。  先週、一週間の主張を命じられて家を空けていた。それから帰って以来、外からずっと物音がするのだ。  ギィ、ギィ…。  いかにも何かが軋んでますっていう、そんな音。  留守の間に近辺で何かあったのだろうかと、見える範囲をざっと窺って見たけれど、窓枠、ガラス、申し訳程度の手すりから何まで、まったくもって異常なし。  外壁にも何もなさそうだし、隣のビルもいつも通り。  もしも何かあるとすれば、ちよっと高い位置にあるあの窓の向こうってことになるんだが…さすがにそこは俺が手出しできない部分だ。  ま、音がするっていっても四六時中って訳じゃないし、聞こえる音量も些細なものだ。そもそも仕事が忙しいから、朝は早くて夜は遅い。つまり、この部屋にいる時間は短い。  そう考えたら物音が気にならなくなり、聞こえてきても、どこかで何かが軋んでるとだけ思い、流すようになった。  そんなある日。  日付が変わりそうな時刻に家に帰ると、何故か閉め切っている筈の窓が開いていた。  泥棒に出も入られたのかと思ったが、室内に荒らされた形式はない。そもそも、この部屋と隣のビルの隙間を考えたら、人間が入り込めないことくらいすぐに判る。  開けたことがほぼないのだから閉め忘れる筈もない。そんな窓がどうして開いているのか。  ただただ不思議に思いながら窓辺へ寄った瞬間、あの、軋むような音が聞こえた。
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