武士は喰わねばやってられん

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 ”薄雲を 風透山に吹きおろし 桜と共に散りぬべきかな”  桟橋に男が一人、飛ぶが如く跳ね上がった身体と共に刃を振りかざした。  その刀身は月明かりに照らされ、まるで血を啜るが如く真っ赤だった。  辺りには二人の下手人が骸と化して転がっていた。  咎人と言えど、これほど無残な刑の下し方は無いであろう。  まるで子どもの八つ当たりの如く、急所もそうでない場所も関係なく切りつけていた。  町の大通りの出来事であったが、丑三つ時で有った為騒ぐ通行人すら居なかった。  ただ、鈴虫の声だけが事実を伝えんとばかりに辺りに羽音を響かせていた。
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