第1章

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かやぶき屋根の入口をくぐると、手入れの行き届いた庭が広がっていた。 足元には石畳が庭へと続いており、この先に宿の入口があるのだろう。 俺は、庭のきれいさに見惚れつつ、ゆっくりと先に進む。 後ろの方で両親の声がして立ち止まった。 振り返ると、母さんが弾んだ声で父さんと話している。 父さんも普段より表情がほころんでる感じがする。 2人とも喜んでくれてるのは良いんだけど、まだ宿の入口に辿り着いてないし。 足を止めている2人に声を掛ける。 「父さん、母さん、もう少し先に行くよ~」 2人ともこっちを見る。 「今行くよ。母さん、佑介が」 「もう~、せっかくきれいなお庭なのに」 母さんは俺達2人に文句言いながら、父さんと俺は母さんを宥めながら、石畳を歩いていく。 宝くじで1億円が当たった。 最初は信じられなくて、茫然としていたけど、手続きを済ませ、「タカラクジコウガクトウセンキン 100000000」と記載された預金通帳を見た時は、喜びが一気に溢れてきて、通帳をずっと眺めていた。 俺以外の人には誰にも当選したことは言わなかった。 言いたい気持ちもあったけど、話が広まって知らないやつに襲われたり、身内や友達、見知らぬ団体とかにお金を求められたりするのが怖くて、自分だけの秘密にしておこうと決めた。 欲しいものはどんどん買っていった。 買っていった物でどんどん埋め尽くされ、1Kの部屋から3DKの部屋に引っ越しもした。 2ヶ月ぐらいは毎日が楽しかった。 通帳の額がまったく減らない事が楽しかった。 でもそんな生活に慣れてきて、欲しい物を買っても、美味しい物を食べても、通帳を見ても、楽しさや満足感はすぐに消えていった。 なんというかつまらない。 贅沢な言葉だけどそれがすごくしっくりきた。 それは会社での仕事にも影響し、給料やボーナスが増えても、仕事で上手くいっても、上司に評価されても、可愛がってる後輩達に飲みに誘われても、つまらない、つまらない、つまらない。
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