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かやぶき屋根の入口をくぐると、手入れの行き届いた庭が広がっていた。
足元には石畳が庭へと続いており、この先に宿の入口があるのだろう。
俺は、庭のきれいさに見惚れつつ、ゆっくりと先に進む。
後ろの方で両親の声がして立ち止まった。
振り返ると、母さんが弾んだ声で父さんと話している。
父さんも普段より表情がほころんでる感じがする。
2人とも喜んでくれてるのは良いんだけど、まだ宿の入口に辿り着いてないし。
足を止めている2人に声を掛ける。
「父さん、母さん、もう少し先に行くよ~」
2人ともこっちを見る。
「今行くよ。母さん、佑介が」
「もう~、せっかくきれいなお庭なのに」
母さんは俺達2人に文句言いながら、父さんと俺は母さんを宥めながら、石畳を歩いていく。
宝くじで1億円が当たった。
最初は信じられなくて、茫然としていたけど、手続きを済ませ、「タカラクジコウガクトウセンキン 100000000」と記載された預金通帳を見た時は、喜びが一気に溢れてきて、通帳をずっと眺めていた。
俺以外の人には誰にも当選したことは言わなかった。
言いたい気持ちもあったけど、話が広まって知らないやつに襲われたり、身内や友達、見知らぬ団体とかにお金を求められたりするのが怖くて、自分だけの秘密にしておこうと決めた。
欲しいものはどんどん買っていった。
買っていった物でどんどん埋め尽くされ、1Kの部屋から3DKの部屋に引っ越しもした。
2ヶ月ぐらいは毎日が楽しかった。
通帳の額がまったく減らない事が楽しかった。
でもそんな生活に慣れてきて、欲しい物を買っても、美味しい物を食べても、通帳を見ても、楽しさや満足感はすぐに消えていった。
なんというかつまらない。
贅沢な言葉だけどそれがすごくしっくりきた。
それは会社での仕事にも影響し、給料やボーナスが増えても、仕事で上手くいっても、上司に評価されても、可愛がってる後輩達に飲みに誘われても、つまらない、つまらない、つまらない。
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