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「だけど…さっきのあなたの演説を聞いて、目が覚めたの。あなたは怖いはずなのに、必死に声を出してるのが、痛いくらいに伝わってきて…。あなたがこんなに頑張ってるのに、私は何をやっているんだって…。生徒から教えられるなんて、教師失格ね。」
先生の目に、涙が溢れていく。口を抑え、瞳を潤ませながら俯く先生を見て、正直――今すぐにでも掴みかかりたかった。
今更この人は何を言っているの…?
あなたがもう少し助けてくれたら、こんなことにはならなかったのに。
一番悪いのは、自分だって分かってるけど、怒りが溢れて止まらなかった。
(この人は…偽善者だ。問題になりたくなくて、謝ることですっきりしたいだけ。いい先生を演じたいだけ。期待しても…無駄なんだ。)
怒りに満ちた拳が動き出すのを、ぐっと理性で阻止した。
ここで感情を出したら敗けだ。そう、言い聞かせ、平常心を保つ。
「もう…終わったことですから、いいです。では…さようなら。」
若干の皮肉を込め、それだけ言うと素っ気なく背中を向け、歩き出す。
「っ…立花さん…」
ところが再び呼び止めれて、動きを止める。まだ、何かあるのかと思ったがあえて無言で背中を向けたまま立ち尽くす。
「許してほしいなんて言わないわ。だけど、これだけは言わせて。あなたがいなくなったあとの教室は…私が守るから。絶対に…2度と傷つく子を出さない…!!あなたの姿を見て、変われた人が少なくともここに一人いるって…分かってちょうだい。」
「っ……」
頬から、つぅーっと一筋の雫がこぼれ落ちる。
その音を合図に、次々と溢れ、制服を伝っていき、染みになる。
拭っても拭っても、キリがない。
(な…んで…?偽善だって思ってるのに、何で…涙が…悔しいから?…違う…)
嬉しかったんだ。その言葉は偽善なんかじゃないって、分かったから。
心に響いてきたから、先生の想いが伝わってきたから。
この流れる涙が、何よりの証拠だ。
(私がしたことは、無駄じゃなかったんだね。みんなに伝わったかは分からないけど、私は…確かに誰かを変えることができた。それだけで充分。)
「っ…は…い。ありがと…うござい…ますっ…」
涙と共に吐き出した言葉は、震えて、うまく言えなかった。
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