ごめんね、そして…

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今私の心にあるのは、そんなマイナスの感情ではなかった。 少しでも、その涙を取り除いてあげたかった。自分の中に、そんな優しい気持ちがまだ残っていたことが驚きだった。 「夏恋……」 私は、そっと夏恋の頭に手を伸ばす。私より少し背が低いので、触れるのは容易だった。 ふわふわの柔らかい毛が私の指に絡まる。 「ごめんね。私、夏恋のことが大好きだったの。私は、今まで本当の私を見せたことがなかった。いい子を演じてばっかで…だけど夏恋の前では本音が話せて、ほんとに…居心地がよかったよ?」 「夏恋も…夏恋も、おんなじ…。美琴ちゃんと出会うまでは、偽物の笑顔ばっかで…嫌われるのが恐くて、愛想笑いしかしてなかったの…。」 声を震わせながら、話す夏恋。 私は、静かに頷いて、答えた。 「そっか。似た者同士だったから、こんなに気が合ったんだね。でも…ごめんね。私が台無しにしちゃったね。私が途中から、関係を変えちゃった…。」 夏恋は、無言で首を横に振って否定した。 「ううん、夏恋も悪かったの…あの時夏恋が、止めてって…こんなの友達じゃないって…喧嘩になっても言えばよかったんだよ…本気でぶつかり合うのが、友達なのに…美琴ちゃんがみんなに無視されるようになったのも、夏恋のせい。夏恋は別に、美琴ちゃんをいじめたかったわけじゃない…昔の美琴ちゃんに戻ってほしかっただけ…二人の問題だったのに、周りまで巻き込んだ…。ずっと止めたかったけど、恐くて、できなかった…ごめんねぇ…」 か細く、だけどはっきりと聞こえる声で夏恋は言う。 夏恋も、ずっと苦しんでいたのかもしれない。 今思えば、みんなからいじめられるようになった頃、夏恋だけは直接私に被害を加えることはなかった。
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