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「又結婚しようか?政宗、今度は、愛を誓わせる意味で…」
「それは嫌だな」
相手の存在が、自分の命に等しい。そんな相手に巡り会ってしまったのだ。
「では、ノエルの幸せを願って」
「乾杯」
この二人の会話は、皆、聞いてしまっていた。時宗でさえ、そっと聞き終わると、見守ってしまっていた。
ノエルの結婚式は盛大であった。その後、披露宴が三日三晩続く。何かの毎にブーケを投げたので、大量にあったブーケは全部使い切りそうだった。
巨大なブーケは、投げる事ができす、一般も含めて争奪戦になった。
勝ち取ったのが誰かは分からなかったが、邪魔になることは確かであった。
ノエルは終始笑顔で、キルヒがエスコートしていた。
「詩織も、俺にエスコートさせない?」
「お断ります、政宗君。私は、時宗が一番です」
詩織は、時宗のために生きていた。
「茶屋町?」
茶屋町は、陽菜を抱えて、ご機嫌であった。中々、二人きりにはなれない親子なのだ。
「リーは競技だからな…どうぞ」
宝来が、政宗に手を差し出す。
「宝来、俺はエスコートしたいの、されたいではなくて」
でも、皆の注目を集めていた。怪我を隠した政宗は、夢のように儚く、濃紺の瞳が潤んで揺らぐ。本人の自覚は無いが、とびきりの美人であるのだ。それを、役者のような宝来がエスコートしていた。
転びそうになった政宗が、照れ隠しに笑うと、周囲から小さく溜息が漏れていた。政宗の笑顔は、どこか幼い表情で、影が微塵もなく、また、宝来への揺らぎ無い信頼が見てとれた。
「宝来…周囲が何か変だが?」
「そうだな、見られているような」
好意的な視線には、政宗も宝来も慣れていない。殺意には詳しいのに、好意には鈍い。
「しかし、そのテープはすごいな。本当の皮のようだ」
「だろう、俺が開発した。詩織のボディに何かあったら、すぐにテープで補修できるようにだ」
色気のない会話をしているのだが、周囲には聞こえていなかった。政宗の笑顔を、宝来が見守っている、と、捉えている。しかも、政宗の笑顔は、宝来にしか向けられない。政宗は、他の人には、不安そうに受け答えしていた。ノエルの体調を心配していただけだったのだが、それが、又、周囲の溜息に繋がっていた。
たった一人にしか、向けられない笑顔。天使の笑顔には、所有者が居る。
「父ちゃん、新郎より目立っているぞ」
時宗は、詩織と一緒に歩いてきた。
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