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茶屋町の妻の紗知は、テロで脳を失い死亡となったが、今は事故でボディを失った少女の脳が入っていた。
「紗知は、陽香(ようこ)のままでいい」
茶屋町は、機械の調整を行いながら呟いていた。
「…もう一つ、紗知が死亡でできなかった、陽菜(ひな)を茶屋町の実子と書き換えると言ってきた」
茶屋町が、困ったように政宗を見た。
ユカラも、政宗が茶屋町のことになると、無理をすると知っている。
「……引き受けてもいいのか?政宗」
「いいよ」
からくり屋は、跳ねるというフェイクゴーストに悩まされている車を、半ば解体し組み立て直していた。原因は、ハンドル部分の制御に、おもちゃだった部品が組み込まれていた。限りなく再利用を推進した宇宙で、これも珍しいことではない。
念のためと、車は全てバラされたが、他に原因は無かった。
「ただいま、父ちゃん」
政宗の息子の、時宗が帰ってくるなり、作業場に鞄を投げた。八歳になる時宗は、最近、機械にはまっていた。
「おかえり。ミチル、ありがとう」
ミチルが手話で、ただいまと告げていた。ミチルは十八歳で、大学生になっていた。ちなみに、時宗は大学院生であった。
「ミチル、時宗の送迎を頼んでごめんな。俺、この車を納品に行くから、又、時宗の護衛を頼むな」
組み立てた車を政宗が運転し、茶屋町は自宅の車で納品先まで向かう。
『いいっすけど、政宗さんこそ護衛が必要ではないですか?』
ミチルは、手話で政宗に質問していた。政宗は、ミラレスの天然体と呼ばれ、国宝級の存在であった。しかし、本人に自覚は全くない。
「平気だよ、これでも、俺、元軍人よ」
政宗は、車に乗り込むと、作業場のシャッターを上げた。作業場には、車がまるごと入っている。
ミチルは、政宗の養子で、政宗は養子が十人程居た。この敷地内に住んでいるのは、ミチルだけだが、オウランドの砂漠にある施設通称王ランドには残り九人が住んでいた。
本当は、五人は工藤 ノエル博士の所で働く予定だったのだが、ノエルがオウランドに来ているため、ここで生活している。
「行ってくる」
車の納品を行い、帰ろうと車に乗り込むと、又、茶屋町が妙な物を拾っていた。死にそうな、人間だった。
道の横で、うずくまったまま動かなかった小さな影は、近寄ると人間であった。運転していた茶屋町は、すぐに止まってしまったのだそうだ。
「大丈夫か?」
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