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茶屋町は車に乗せた、ここまで良い。
「俺の迎えよりも、先に病院に行ってね」
政宗をその怪我人を乗せたまま、迎えに来ていた。
「政宗も目を離すと、何をするのか分からないしね」
病院に連れてゆくと、診察で大怪我であったということが分かった。その怪我は、最近のものではなく、過去からの積み重ねであった。
「…虐待か?」
少年と思った男は、成人男性であった。しかも、ミラレスの出身者で、実験体だと分かった。
病院の入院施設のベッドで、全身二十箇所の骨が折れている青年は、そこに座って話していた。
「いえ、フォールの選手なのです」
フォールの選手、惑星フォールはカジノの星で、そこでは日々賭け事が繰り広げられていた。そこで大人気のスポーツが、星の名前を取りフォールと呼ばれていた。
「それで、こんなに怪我が多いのか…」
フォールの競技で、最近、フェイクゴーストが多発し、事故になっているのだそうだ。そこで、ユカラにいい腕の職人が居ると聞いて訪ねてきたらしい。
又、フォールか。政宗は、黙って話を聞いていた。
「仲間が死んで、もう、誰も死なせたくない…」
政宗が、ふと共感してしまっていた。青年の顔をじっと見つめる。仲間を死なせたくないから、重体なのにここに来たというのか。
「もう眠りなよ」
「いえ、俺、横になったら、多分、もう目覚めることができません…」
ミラレスとしても、限界なのだそうだ。政宗は、左目に付けていた機械を、そっと取ると生体型の目に切り替えた。
「……貴方、天然体なのですか」
ミラレスの実験体は、天然体を至上の存在と認識する。絶対に守らねばならぬもの。
「俺の弟が、治療する。治せ」
天然体は、実験体にとって至上の存在であった。それが命令し、治すと言えば、断ることができない。
「はい」
政宗の弟は、今、ユカラの研究所に勤務していた。生体医学には詳しいので、どうにかはしてくれるだろう。
「あの、もしかして、貴方達がからくり屋なのですか?」
噂で流れていた、ユカラでは天然体が護衛も付けずに生活し、しかも、危険な仕事までしていると。しかも、凄腕の機械の修理屋であるとも。
「お願いします、フォールの仲間を助けてください!」
重体に、土下座されてしまった政宗は、何度も頷いてしまっていた。
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