第1章

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 政宗が、両手を広げると、時宗が飛び込んでくる。この温もりは、政宗の幸せであった。 「父ちゃん、道草はするなよ。心配するだろう」 「そうだな、ごめんな」  政宗は、時宗を夜空に掲げる。 「…重くなったな」  両腕にずっしり重い。 「なあ、時宗。俺、フォールで仕事をしてくるから、その間、上原の所に居てくれ」 「……また、行くの?」  泣きそうな顔で、時宗は見つめていた。 「すぐに帰ってくるよ」  でも、政宗が何かに熱中すると、なかなか帰って来ない。 「…分かった」  時宗は、親の心を読む子供であった。我儘を言って、困らせる事はしない。でも、それが政宗には辛かった。 「……一緒に行くか?」  政宗は、言ってしまってから、しまったと後悔していた。惑星フォールは、治安のいい星ではなかった。 「本当!」  目をキラキラさせる、時宗がいた。茶屋町が溜息を付いている。  時宗が来るとなると、ミチルが来る。ミチルが来ると、エイタも来る。 「…人数、多いね」  宇宙船、虎森丸に大量の食糧が積み込まれていた。惑星フォールは、カジノ客以外のホテルの宿泊をさせない。子供がいたのでは、カジノ客とはならない。カジノに子供は、立ち入り禁止であるのだ。ミチルは十八歳なので、カジノに入れるが、時宗とエイタはガジノには入れない。  ホテルの代わりに、貸出の部屋があるが、宇宙船での生活も許可されていた。虎森丸で生活するつもりで、政宗は沢山の食材や、キッチン用品も積み込んだ。 「出発するか」  虎森丸の、操縦は茶屋町が行っていた。政宗は、再び、資料を眺めていた。 「父ちゃん、資料、紙なのか?」  政宗が、紙の資料を読むのは珍しい。左目を機械に繋ぎ、一気にデータで入手するためだ。 「手書きの資料で、さ」  重体の男が書いた資料であった。資料というよりも、長い手紙のようでもあった。  まずフォールというゲームのルール。真っ暗な透明なチューブの中を、背に各色の光を背負い落ちるのだ。そこで順位を競う。チューブ内には、審判も観客も無く、何をやっても構わない。かなり、格闘技であった。足にも手にもローラーをはめ、ひたすら滑り落ちるのだが、危険だというのに、賃金は僅かであった。
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