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「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
念願のベリーアイスシューを私は、ホクホク顔だ。
『誠に勝手ながら、本日のベリーアイスシューは完売しました。
並んでいて下さった皆様、申し訳ございません』
私の後ろでそんな声が聞こえた。
と、いうことはだ。
私のこれは最後の一個であったらしい。
多少の罪悪感はあるものの、やはり純粋に嬉しいと思う。
家に帰って紅茶と一緒に.......。
ああ、考えただけでも涎が....
「それは良かったな」
私を現実に引き戻す、無駄に艶のある声がすぐ後ろで聞こえた。
驚いて、振り向くとそには。
会社の上司がいた。
「か、神蔵課長」
神蔵千歳、その人。
私が勤めるIT関係の会社の、三十四歳営業第二課課長。
眼鏡の奥の涼しげな瞳と、均整の取れた美貌。
なのに浮ついた噂一つないもんだから、女性が放っておく訳がない。
バレンタインにチョコレートをあげる人は、星の数ほど。
社外の人からも、貰えるらしい。
羨ましいかぎりだ。
だが、一度ももらっていないのは......
甘いのが苦手だから。
そんな人が何故この甘さが詰まったケーキ屋に?
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