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32/悪魔の降臨1
クラウディア号 午前10時21分
……ホールのほうが騒がしくなった……?
低く小さきどよめきや無数の囁き。そして、急に緊張感を帯びた雰囲気の変化……
エダがその気配に気付き、僅かに振り返った…… その時だった。
「お待たせしました、ファーロング嬢。カミングス氏が、お会いになるとの事です」
「はい。すみません、お手数をおかけして」
「その前に一つ、確認をとりたいのですが宜しいでしょうか?」
「何でしょう?」
「ミスター・クロベ氏は今どこにいるのでしょうか?」
<レディー>は口元に笑みを浮かべ、女性らしいしぐさを見せた。だが眼は鋭く、先ほどまで雑談をしていた時と迫力が違っていた。女性がこういう眼をするときは、何でもする、本気の時だ。裏社会にいる人間ならば皆一度は体験するだろう。そして多くの場合、その底知れぬ迫力に圧倒される。嘘は、まず見抜かれる……
しかし、エダは表社会の人間ながら、こういう人間を多く知っているし、こういう現場は何度も経験している。エダの赤心の胆力は、その見た目や雰囲気とまるで違い、拓やユージにも引けを取らない。
「日本です。島にはいません」
エダは怖じることなく、変わらぬ態度で答えた。
「皆を守るため、日本にいます」
嘘ではない。このクラウディア号も日本の海域にある。
「その事はすぐに確認をとってもらいことになります。それが交渉の条件ですよ」
「分かっています」
「ではこちらにどうぞ。ボスのお時間が取れましたので、案内させて頂きます」
<レディー>は軽く会釈すると、エダを部屋の奥にある廊下へと促した。
そして、同時刻……
クラウディア号左舷。小型船舶用出入口には、モーターボートが乗り上げられている。
その奥にあるセキュリティー・エリアで、クーガンと警備員たちが新しい来客者を出迎えていた。
羽山夫人は、不安そうに周りを見回していた。彼女は羽山の妻とはいえ裏世界とは無縁の女性だ。自分の夫が信じられないような事件の黒幕であり、さらに裏世界の大物がいる場所に連れてこられるなど考えもしていなかっただろう。
「夫人。貴方が羽山夫人だと確認は取れました。ミスター羽山氏がお待ちです。すぐに案内しましょう。あの……英語は大丈夫ですか?」
クーガンは英語で喋っている。
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