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一応羽山夫人も日常会話程度に英語は理解できるが、今の状況では頭の中に入っていないようだ。控えていたソーヤ捜査官が日本語で夫人の耳元で通訳し、ようやく意味が分かったが、戸惑いが消えたわけではなかった。
「ところで…… 手前どもの情報では、羽山夫人をこの船に連れてくるように手配したのはチョウ・リンヂェンという男だそうですが……」
「それは俺だ」
羽山夫人の横に立つ、白いスーツの男が進み出た。変装したユージだ。チョウ・リンヂェンというのはユージが今でも潜入捜査に時々使う偽名で、フリーの中国系米国人傭兵ということになっている。さすがに日系人と名乗るのは疑念を抱かれる。それほど裏世界でフリーの日系人の数は圧倒的に少ない。それに比べて中国系なら世界中にいる。
クーガンはタブレットを開き、チョウ・リンヂェンのデーターを開き、本人と見比べている。チョウ・リンヂェンは元々ユージがごくごく限られた条件化で使用する偽名で、裏世界でも存在している。そこに<M・P>の手によって履歴を追加し検索されそうな場所に過去の経歴を公開している。
「是由于怎?的理由在日本活?着的? 据点地是美国(どうして日本に? 貴方の活動は米国では?)」
「被?老?求在日本。那个事如果???老判明。(チェン・ラウに頼まれて日本にいた。その事はチェン・ラウに確認すれば分かる事だ)」
滑らかなクーガンの中国語に、澱みない中国語で答えるユージ。
「?老保?着我。如果想更知道我的事,也??コ国人和意大利人。(長老が私を保証している。もっと私の事を知りたければ、ドイツ人やイタリア人にも聞け)」
ユージが中国語を喋れる……というのは、ごく親しい身内やコールしか知らない、ユージの秘密だ。公式には喋れない事になっている。
「まだ中国語レッスンを受けたいのか?」ユージは無表情のまま会話を中国語から英語に切り替えた。クーガンは一笑すると、一枚のセキュリティー・カードをユージに手渡した。
「チョウ・ラウ長老から連絡は受けております。あと、ミスター・グレーソン氏に会いたいという希望も受けております。むろん、羽山氏もお待ちです」
クーガンも英語に切り替えた。一瞬、ユージは考え、まず羽山が今どうしているか聞いた。羽山の状況がどうも芳しくないと判断したユージは、羽山はソーヤやリン捜査官に任せ、ラファエロ=グレーソンのほうを選んだ。
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