第1章

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 グレーソンはイタリア系の裏社会ブローカーをやっている男で、ユージの事を知っている人間だ。グレーソンがいることはエダから送られてきた映像を<M・P>が解析し確認している。 「すぐに頼む。場所を指定してくれ」 「では第八階のバー・ラウンジでお待ちを。場所はすぐに警備が案内します」 「業界話をする。余計な監視は無用だ」 「勿論そのあたり心得ております」  ユージは頷き中に進もうとするが、クーガンは思い出したように再びユージを制止した。 「忘れておりました。銃と携帯電話をお預かりします。他に金属製のものは全て預けてもらいます」 「銃は持たない」  そういうと、ユージは背中から大型の折りたたみナイフと、小型ナイフ、計4本と携帯電話をクーガンに手渡した。チョウ・リンヂェンは銃を好まずナイフ使いの近接戦のプロという設定だ。ソーヤとリンもそれぞれ携帯電話と銃をクーガンに手渡した。そして三人は武装した警備員から直接ボディーチェックを受けた。  ユージは均整がとれた、全く無駄な贅肉のない見事に引き締まった身体の持ち主だが、今回は余計な贅肉が腹や足についている。その部分が丸々ボディースーツになっていて、銃、携帯電話などが隠してある。警備員の手が、一瞬ユージの背中で止まった時……そこは丁度パイソンのシリンダー部分だった…… 僅かにユージの心拍数は上がったが、結局警備員は傷跡か何かだと思ったようで、すぐに事務的に手を下半身に伸ばした。同時に金属探知機もかけたが反応は出なかった。 「ようこそ、クラウディア号に」  クーガンはそう日本語で夫人に告げ、軽く会釈をした。  ユージの潜入は成功した。  同時刻 ワシントンDC/東京/紫ノ上島<煉獄> ……年頃の娘の性格は三日で別人だよ…… 既婚者の同僚がそう愚痴っているのを何度聞いたことか。犯罪心理学専門のアレックスとしては、軽く受け流して答えてやるべきか、真面目に思春期の女子の心理状態を説明してやるのが正しいのか…… そんなくだらないやり取りを何度か経験しているが…… 今、アレックスは、人格変化という事について本格的に研究しようか……と不謹慎なのを承知で考えざるを得ない状況を今、体験している。 『オイ! 聞いてンのかアレックス! こっちは色々聞いてるダロ、さっさと情報を寄越せ~ コーヒーを置く! ドーナッツも置く! おーい、返事をしろ返事を!』
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