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「大体分かった。とりあえず、ロシアのテロリストはなんとかする。当面あたしたちは拓ちんや村田とは別行動するから。細かい調整が必要ならそっちでやって。で、話がまとまっていい作戦が思いついたら拓ちんに連絡!」
『このままだと拓さんは村田と協同しますよ? いいのですか?』
「こっちが村田の陽動に勘付いているって知られたら何言い出すかわからんし。異論あるかぁー イレブンっ!」
『了解した。こちらはこちらで対策を立て……』
「以上!」
アレックスの返事をサクラは無視して途中で切り、そのまま携帯電話を懐に収めた。その間にボートは<煉獄>の半分砕けた桟橋に到着していた。
「サクラちゃん!」
涼はすぐに桟橋を駆け上がる。背中には三丁の自動小銃が入ったバッグがあって、桟橋の上でそれを降ろし、肩で息を切った。自動小銃三丁と弾の重量は15kg近く、15歳の少女にはかなり重かったはずだ。これまで重さが気にならなかったのは気が張っていたからだろう。
涼は周囲を見渡し、飛鳥と宮村がいない事に気付いた。
「飛鳥ちゃんと宮村さんは?」
「あー あの二人は今工作中。……飛鳥のほうは自業自得だけどネ」
「?」
サクラは「時間がないから」と二人の上陸を急がせると、上がってきたピートを睨み、不敵な笑みを浮かべた。
「裏切りスパイ! アンタはあたしの駒だ。どういう約束を当局や本部としたかは知らないけど、少しでもあたしが疑問を持ったら殺す。ここは日本で、そしてこの島は無政府の殺人島。普通のルールは通じないと思え」と、涼と交わした会話の口調とは一変、容赦ないドスの聞いた低音で突きつけると、最後に高圧的な笑みを浮かべた。
「ようこそ。<死神島>へ」
そう告げたサクラの言葉にはほんの僅かも優しさや歓迎する気持ちは入っていなかった。
紫ノ上島 <新・煉獄> 午前10時26分
<この島では安全な場所はなく、常に命の危険が伴う>
<常識外の出来事が散々起きる、常識の通じない場所>
……そんな事は、誰もが承知していた事だ。
そのはずだった。もう今が最低の状況なのだから、これより悪くなるはずがない…… そう信じていた生存者たちも多かった。
それが幻想で、さらに悪い……それも想像すらできないような状況を知った時、人間は理性を保ち得るかどうか……
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