第1章

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思えば50代にもなって管理職ではなく僻地の閑職に回されるというのは、年金稼ぎか無能か理由があってか…… その三つのどれかだ。少なくとも仕事に情熱を燃やすタイプではない事だけは間違いない。  その時自動的に一つの動画の再生が始まった。セシルと涼、二人が同時にその動画を見る。何度も見飽きたサタン…… 村田の動画だ。 『まさか紫ノ上島以外で僕を見ることになるとは思わなかったでしょう? そう、核兵器をここに封印するという考えは中々いい判断です。ですが、紫ノ上島のモノを他所に移すのはルール違反です。この動画が流れたということは、かなり切迫した状況を潜り抜けての事だと思います。しかしゲーム終了まで紫ノ上島を出る事は許されません。実は格納庫に爆弾が仕掛けられています。もしここを利用するというのなら、遠慮なく爆弾のスイッチを押させて頂きますのでご了解下さい』   同時刻 <ニンジャホーム> 「どういう……事?」  涼は愕然とPCモニターを見ていた。これまで何度も驚くようなことがあったが、今回ほど度肝を抜かれた事はない。隣りで作業していたピートも驚きを隠せないでいた。彼は運営側が送り込んだダブル・スパイだったが、ゴードンが村田と繋がっていたなど聞いてはいないし、CIAも軍も探知していない。 『高遠さん! 安心してください、これは録画ですから』 「……はい」  確かにその通りだ。村田は涼だけでなく誰を相手にしているわけではなく、喋りは事務的だ。これは録画だが村田が語っているのは過去ではなく未来だ。村田はいつもの口調で喋っているが、<誰>とは一言も言っていない。 『今確認中ですが、こうなるとそこは安全ではありません。その<ニンジャホーム>は膨大なガソリン地下貯蔵庫と海流発電所で、軍施設です。爆発物を持ち込むこともそれを仕掛けることも可能でしょう。ですが……爆弾は多分フェイクです』 「爆弾はない……って事、ですか? でもここは安全じゃないって……」  セシルの勘だが、根拠はある。 『今計算してみましたが、その施設に埋蔵されているガソリンが一気に引火すると戦術爆弾に匹敵する大爆発が起きます。爆風に人工的な地震、津波が起こります。周囲5キロ圏内は爆発の影響を受けますから、ゴードンが逃げ切れるとは思えません。そしてその爆発で電力が切られ、紫ノ上島は機能停止になります。だからフェイクです』
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