第1章

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 ピートは短く「了解です」と答えた。歳はセシルのほうが下でもCIAの階級ではセシルのほうが上だ。もっともピートは裏切り者として、すでに籍は消されているが。 『高遠さん。電話はこのまま繋げたままイヤホンに。その男はこっちで使いますから放置してください。必ず自動小銃と防弾チョッキを持っていってください』  涼は頷き、デスクの上に置いてあった携帯電話を取り、イヤホンを挿して懐に入れた。その時、ベレッタM9が目に入る。涼の瞳にはまだ怒りの色が残っていたが、セシルの言葉を思い出し、そっとベレッタを取ると、ズボンに押し込んだ。そして、セシルの指示通り、ナイフを彼の目の前に置いた。拘束具ではなくロープで拘束しているからナイフがあれば外れるが、簡単ではない。自由を得るのは涼が出て行った後だろう。 『高遠さんいいですか? その男は法の裁きを受けさせるから、今は自分のことを考えて』  この会話はスピーカーではなくイヤホンだからピートに聞かれてはいない。セシルはスピーカーでは免罪を口にしたが、無罪放免にする気は微塵もなかった。CIAを裏切った者がそう簡単に許されない事は、セシルのほうがよく知っている。むろんピートは知らない事だが。  時間はない。涼はすぐにその場から駆け出した。自動小銃は確か入口近くのロッカーに入っていたはずだ。全てM4カービンだったと思う。担いでいくだけなら3丁くらいは持って行けるだろう。     紫ノ上島本館前 午前10時15分  「まさか、こんなに早く再会する事になるとは思わなかった」 「同意見です、捜査官」  紫条家本館前で、拓と村田は再会した。村田のほうが遠かったのだろう、村田は息を切らしながら、相変わらず清々しいほどの笑みを浮かべている。 「何が楽しいのか知らないけど、ヘリはもう上空を旋回中だ」 「撃墜しちゃってくださいよ捜査官。ウチのヘリ、あっさり三機も撃ち落したでしょ?」 「あの時みたいな重火器はない。それにあったとしてもお前に撃たれた俺じゃ使えないよ」  ……そして撃墜したのはユージだ。あんな化け物と一緒にするなよ……   拓は心の中でつぶやいたが、それは口には出来ない事だ。 「詳しい話をお前の口から聞きたいが、必要なくなった。裏は取れた」と拓。ここに来るまでにコールに電話し、初めて水素爆弾の事や<ニンジャホーム>の事を聞いた。
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