プロローグ・ザボーダーライン

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――――私のシェルが海底の奥底までの潜航を試みてから、ざっと10分と数分だったはずだ。 あっという間に海面下200m以上の深海は到達した処だった。 ランチャーの左腕部を見れば、どうやら辛うじて、ランチャーを貫通した角が引っかかっているらしいツノツキがもがいているのが見える。 だが左腕部が四散するまでそう長くは保てないと、私はコックピットディスプレイに映る、軋んだ左腕部ランチャーを見て覚った。 奴をどうにかするなら今しかない。 でなければ、ツノツキは上昇し私の部下とウォルの艦体を狙う。 そう全てを覚悟した私は、シェルの右腕部の単分子ブレードの爪で、ツノツキの外骨格の頭部と鱗の肌の継ぎ目を狙い刺突し、角の部位を抉る様に斬り裂いた。 ツノツキは断末魔を叫んでから、見事に深海の底へ沈んでいく。 EPケーブルからの動力源を失ったこの機体の内臓電源が尽きるまで、残りの時間は4分を既に経過していた。 “こんなところでネイヴォーガが棺桶か” 後悔したかのようなセリフが頭に浮かぶが、後腐れはない。 やれる事はやった 私はこの時やっと気づいたのかもしれない、こういう事態をウォルは気に病んでいたのかと。 でも…それでもこれが私の望み目指した死に様だった。 人類の存亡という、そんな大きなテーマ性ではない。 それ以前に、 自分と関わった“人間”をクラーケと海域の侵攻から守る形で最期を迎えたいと、心からそう望んで今まで士官学校でも訓練を積み重ねてきた。 …が、そう残す言葉が少なかった事をしみじみ受け入れていた時だった。 生体反応を感知するアラートが私のシェルのセンサーに反応する。 ―「ッ!?」― 残りのジェネレーターの電源を使い解析すれば、暗い視界に浮かぶ生体反応の正体に私は驚愕し絶望した。 “ツノツキ”の同個体である。 それも1匹や2匹ではない、“6匹”は確認出来る。 まずい、上昇するそのセミヒュージ級のクラーケの群が襲う矛先は、私の部隊とウォルの船だ。 「クソッタレがッ…」 私は焦る。ジェネレーターをスクリューブースターに回そうとするも、動力はもう底を尽くどころか、奴らの潜航速度にすら間に合わない。 ランチャーは大破し魚雷も撃てない。 全ての望みは失せた 私の犠牲を払ってさえ、私は無力だった。 “畜生” 私の機体は沈み行き、絶望が私の脳裏に過る。 ―そんな時だった…
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