第1章

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男は毎週発売している宝くじを1枚だけ買うのが趣味だった。 わずかな期待はしていたが、それよりもその1枚で当選金1億が当たった時の妄想にふける方が好きだったのだ。 世話になった両親に1千万ずつ渡して旅行にでもいってもらおう。 小さいけど家も建ててあげよう。 仕事をやめて小さな雑貨屋か古本屋でもしながらのんびり気長なに過ごそう。 それよりも投資家になってさらに金を増やそうか(そんな才能ないだろうが) なんて考えながら酒を飲みつつテレビを見るような感じだった。 なので、その日もさほど気にもせずいつも通り当選番号を確認した。 ・・・ !!! 当たってる 男は声も出ないほど驚いて、しばらく目を見開いたまま固まった。 ふと、我に返った男はその後何度もその番号を確認した。 1億当たっていた すぐさま誰かに伝えようと思い、両親に電話をかけようとした瞬間ふとその手が止まった。 高額当選者の心得のようなものがあると聞いたことがある。 舞い上がって言いふらすと、よく知らない親戚や友人、詐欺師などに騙されて奪い取られてしまうとか。 換金後に外で奪われてしまうとか。 男はパソコンからその手の情報を片っ端から調べ、読みふけった。 仕事を2,3日休み調べ尽くした男は完全に人間不信になっていた。 カーテンは閉め切り、ドアの鍵もかけたまま部屋の隅で宝くじを握りしめたまま身を固めていた。 隣人に気付かれてたらどうしよう、ドアの前で待ち伏せされてたら、換金所に行く前にスリにあったら・・・ そんな妄想ばかり考えていたがふと手に握りしめたくじを見て思った。 あ、1億あれば警備も付けれて安全だと。 男は全速力で換金所に向かうことにした。 できるだけ人との間隔をあけ、呼び止められないように周りの声に耳を傾けずただ真っすぐ走った。 男は信号を無視して交差点を走っていた。 そして車にひかれて死んでしまった。 その手には瞬間接着剤で張り付けた宝くじが握られたままだった。
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