番外編・彼女のなまえ

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「本当は別のお願いをされたいところだけど、 仕方がないな。でも、このくらいは許せよ」 言うなり素早く唇を重ねた直彦さんが 狼狽えるわたしを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。 _____ ____ 「もう、からかったんですね!」 「俺はいたって真剣だったよ。君もその気に なってくれたら続けても良かったんだけど」 「だめに決まってるでしょ、会社ですよ」 資料室を出たわたし達は、小声で言い争う。 昼休みを終え、部署に戻る何人もの社員達が、 急ぎ足で会釈をしながら通り過ぎて行く。 「わたし達、たまにこうして廊下で 話をしますけど、一度も噂になりませんよね」 これが他の女の子なら、翌日には社内中の 話題になるのに。 長年目立たないように行動してきたし、 きっとわたしが仕事以外で彼と話す事など 無いと思われているんだろう。 助かっているけど、それはそれで、 喜んでも良いものなのか。 「そうだな、これなら資料室に連れ込み放題 だったのに」 「何言ってるんですか、支社長のくせに。 とにかく、大田さんには気をつけて下さいね。 何なら明日にでも発表して……」 直彦さんが他の女の子に言い寄られる姿なんて、 もう見たくない。
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