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「本当は別のお願いをされたいところだけど、
仕方がないな。でも、このくらいは許せよ」
言うなり素早く唇を重ねた直彦さんが
狼狽えるわたしを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。
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「もう、からかったんですね!」
「俺はいたって真剣だったよ。君もその気に
なってくれたら続けても良かったんだけど」
「だめに決まってるでしょ、会社ですよ」
資料室を出たわたし達は、小声で言い争う。
昼休みを終え、部署に戻る何人もの社員達が、
急ぎ足で会釈をしながら通り過ぎて行く。
「わたし達、たまにこうして廊下で
話をしますけど、一度も噂になりませんよね」
これが他の女の子なら、翌日には社内中の
話題になるのに。
長年目立たないように行動してきたし、
きっとわたしが仕事以外で彼と話す事など
無いと思われているんだろう。
助かっているけど、それはそれで、
喜んでも良いものなのか。
「そうだな、これなら資料室に連れ込み放題
だったのに」
「何言ってるんですか、支社長のくせに。
とにかく、大田さんには気をつけて下さいね。
何なら明日にでも発表して……」
直彦さんが他の女の子に言い寄られる姿なんて、
もう見たくない。
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