番外編・彼女のなまえ

15/23
7717人が本棚に入れています
本棚に追加
/406ページ
「嘘って、どういう事?」 資料室に入るなりドアに押し付けられ、 彼に圧し掛かるように見下ろされる。 いつもの別れ際と同じシチュエーション。 けれど、会社で、それも資料室というのが どこか背徳感を感じさせた。 すっかり見慣れた彼の顔を、なんだか 照れくさくてまともに見るのが難しい。 「ご、ごめんなさい。偶然大田さんとの話を 立ち聞きして。彼女を追い払うために……」 「書類をでっち上げた?」 「ええ。だって、彼女が勝手な事を 言ってあなたを困らせるから」 隠しても仕方がない。正直に打ち明けた。 「そうか、聞いてたんだな。知ったら君が 悩むかと思って、黙っていたんだけど」 しょうがないな、という感じで笑う直彦さん。 「ごめんなさい。わたしがギリギリまで内緒に したいと言ったから、あなたを面倒な目に 遭わせてしまって」 「いや、彼女にはここに来た当初から 付き纏われていたよ。はっきり言葉に されたのは昨日だけどね」 「そんなに前から!?」 さらっと爆弾を落とされ、思わず大きな声を 出してしまった。
/406ページ

最初のコメントを投稿しよう!