第1章

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粉雪が車道に舞っている。 今朝も先生は自転車通学。 スーツと黒のトレンチコートの襟からはみ出した白いYシャツ。 先生は音楽を教えている。 吹奏楽が終わったあと音楽室でピアノを弾いている。 誰に捧げる分けでもないその指先から溢れ出す音色を私はいつも聴いて帰る。 だけど、一年の真冬に遂に見つかってしまった。 ちらちら雪が降っていた気がする。夕日が消えそうな時間帯。 「十六夜」 私はその場に固まった。 「もう六時だ。早く帰れ」 「は、はい」 「あ、これ、誰にも言うなよ」 「はいっ。あの」 「なに?」 「誰の為に弾いているんですか?」 私は、眼鏡素敵ですね、といいかけて止めた。
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