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「ぐえっ」
腹部に衝撃を感じて目を覚ますと、弟の正義の足が腹の上に乗っていた。
「…ざけんなよ」
樋口公平は弟の筋肉質な足を持ち上げて反対に放り投げ、大きな溜息をついて項を摩った。
肩まで伸びた髪を無造作にかき上げ目覚まし時計を見れば、まだ午前五時半を差している。もう一度眠ろうと枕を頭に付けてみたが、なんだか空腹を感じて眠れない。
公平は観念して立ち上がり、体を掻きながらカーテンを開けると、外は昨日の豪雨が嘘のように、すっきりとした空が広がっていた。窓を開けると少し冷たい朝の空気が心地よい。
「たまには走りにでも行くかあ…」
あくびをしながらジャージに着替え、ウィンドブレイカーを羽織って財布をポケットに入れると部屋を出た。部屋を出る時、正義の足を軽く踏みつけてしまったが、彼は起きる気配すらなかった。狭い家だから贅沢は言えないが、百八十センチを越す大男二人が六畳半で生息するのは聊か息苦しい。
雨上がりの匂いを大きく吸い込んで、玄関の前で軽く体を旋回させ、アキレス腱を伸ばし軽い準備運動する。庭の新緑が朝日に光って眩しい。公平は走り出した。
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