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「うわあああっつ」
と叫けぶと、手の持ち主がのっそりと顔を出した。薄い頭髪と長い顎鬚は白髪で、どうやら幹に背を凭れて座っていたらしい。
「わあ、びっくりした」
公平の大声に眉を顰めた老人は、しかしあまり体調が良くないらしく青ざめた顔で胡乱に彼を見上げた。公平は老人の肩に手を掛けた。
「大丈夫ですか?具合が悪いんじゃ」
すると老人はゆっくりと首を横に振って、少し白濁し潤んだ目で桜を見上げた。
「…きれいだ…」
公平もつられて根元から桜を見上げた。世界が紅に染まっている。
「ホントですね」
彼はそう言って腰を下ろし、老人の隣に座った。こうやって早朝の桜色の風に身を委ねていると時間が止まった気がした。
「ううっ」
突然、老人が息苦しそうに胸を抑えて呻いた。
「大丈夫ですか!」
公平は老人の肩を軽く揺すった。
「くうっ、ううっ…」
老人の顔から血の気が無くなっていく。
「き、救急車呼びますね。あ、あれ、ない」
公平は慌てて立ち上がりポケットを探すが、携帯電話を家に忘れてきたらしい。
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