第1章

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「ち、ちょっと、待ってて下さい。すぐ戻りますんで」  確か公園の入り口に公衆電話があったはずだ。公平は全速力で走り出した。  暴風雨の翌日のせいか、いつもはジョギングやラジオ体操で賑わう公園内に人気はいない。彼は足元の濡れそぼった植え込みを真っ直ぐに突っ切って、公衆電話に向かった。すると、公園の入り口から救急車がこちらに向かって来るのが見えた。  公平は救急車に向かって手を振り、不惑の桜の方角を指差した。 「すいません、あっちです!」  誰かが老人を見つけ、携帯電話で救急車を呼んでくれたのだろう。フロントガラス越しに公平を一瞥した白衣の男は、そのままぬかるんだ芝生広場に救急車を乗り入れた。不惑の桜の前で止まると、後ろから素早くストレッチャーを出して老人を乗せる。ちょうどリアゲートを閉めたところに、公平は息を切らせて戻って来た。 「大丈夫っすか」  膝に手を当てて肩で息をしている公平の背中を軽く叩いた白衣の男は、そのまま無言で助手席に乗ってドアを閉めた。  救急車は泥を跳ね上げながら公園を出て行き、公平は呆然とそれを見送った。
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