第2章

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   仁科有朋の朝は遅い。  大抵朝方まで読書しているので、休日ともなれば昼前に起きることはない。しかし、何故か今朝は早起きしてしまった。早起きとは言っても、もう午前八時過ぎだったが。彼はパジャマのまま、自室がある離れから日本庭園を臨む長い縁側を通ってダイニングへ顔を出した。 「おはようございます」  家政婦の山田が頭を下げて、さっと朝刊を彼に手渡す。有朋は軽く頷き、それを無言のまま受け取って、紙面を広げながら椅子を引いた。すぐに良い香りのコーヒーが差し出される。彼は新聞から目を離すことなく、琺瑯の赤いマグカップの取っ手を掴み一口啜った。 「おはよ」  聞き覚えのある声に有朋はゆっくりと新聞を下ろした。目の前で幼馴染の樋口公平がトーストを齧っている。 「………」  有朋は公平の顔を見て右眉を上げ、それからまた新聞に目を戻した。 「おい、無視すんな」  公平は新聞に手を掛けて有朋の顔を見た。有朋はのろのろと顔を上げた。 「おはよう」  有朋の形ばかりの挨拶に、公平はご機嫌に緑のマグカップを持ち上げた。 「なんでお前がうちで朝飯を食べているんだ?」  有朋は新聞に目を走らせながら面倒臭そうに訊いた。 「知りたいか?」 「言いたいの間違いだろ」  朝の弱い有朋は、仏頂面で新聞を捲った。 「それがさ、朝、榴岡公園でジョギングしてたら、おじいさんが倒れててさ…」  公平は今朝の出来事を親友に話して聞かせた。
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