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有朋は始めまったく興味が無さそうだったが、そのうち関心を持ち始めたようで、公平が話し終わる頃には頬杖をついて形の良い顎を摘まんでいた。少し寝癖のついた長い前髪から覗く切れ長の鋭い眼光が、壁の静物画を凝視した格好で動かない。
「有朋、朝メシ食わないの?」
ベーコンエッグを突付いていた公平が呼びかけても、返事すらしない。いや、多分聞こえていないのだろう。家政婦の山田が公平に近付き、コーヒーのお替りを注いだ。
「有朋様は朝はコーヒーだけで。何か召し上がるように申し上げても駄目なんですよ」
初老に差し掛かった家政婦は、困ったような表情で公平に同意を求めるように言った。
「コナミベーカリーの焼きたてのパン騙されたと思って食ってみろよ。マジ美味いからさ」
「…おかしいな」
有朋の呟きに公平は首を傾げた。
「何が?」
「お前の話」
「どこが?」
「全部」
「は?」
公平は有朋に問い返す。
「最初から最後まで。すべておかしい」
有朋は新聞を畳んだ。公平の顔をじっと見て、自分の口端に手を当てる。
「ついてる」
公平は慌てて右手で唇を拭うと、呆れ顔の幼馴染に食って掛かった。
「オレが嘘ついてるって言うのか」
と剥きになると
「まさか。お前は嘘をつけないし、僕に嘘をつく理由もない」
といつもの皮肉めいた笑いを口元に浮かべた。
「じゃあ、どこが変なのか教えてくれよ」
「いいよ。その前にちょっと調べたい事があるんだ。食事が終ったら部屋に来てくれ」
そう言って有朋は立ち上がった。背を向けた後頭部にはひよこの尻尾のような寝癖がついていて、公平は思わず笑った。
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