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「苺のロールケーキ、ガトーショコラ、フルーツタルトのプレートでございます」
ウェイターが各々の前に皿を並べる。大きな皿には何種類かのデザートが色とりどりに並べられ、コーヒーの芳しい香りが鼻腔をくすぐる。
公平は皿を覗き込んで唸った。有朋も別の意味で唸っている。
「有朋さんは甘いもの苦手だったわねえ。公平君は?」
「大好きです」
公平は力強く頷いた。
「いい返事だこと。ね、見て。公平君はヘミングウェイ。私はフィッツジェラルド」
「へっ?」
「このカップの名前よ。赤がヘミングウェイ、緑がフィッツジェラルド。食器にも名前があるのよ。素敵でしょ」
百合子に言われて、公平は背の高い碗皿を眺めた。カップの胴回りに大理石調の深紅の帯が巻かれ、金の縁取りがある。
「なんだかセレブですね」
公平は感心してガトーショコラを一口頬張った。
「うまいっ。これ、マジでうまいぞ。有朋」
感激しながら有朋を見れば、彼は少し手をつけただけでフォークを置いた。
「良かったら、やるよこれ」
有朋は公平の方へ皿を押し出す。
「この子はね、食事はサプリメントで十分なんて言うのよ。その点、公平君はなんでも美味しそうに食べるから、見ていて気持ちが良いこと。また一緒にお食事しましょうね」
そう言って着物美人はゆったりと微笑んだ。
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