一番町 3

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 真弓がフロアに入ると、先に来ていた皆川が真弓を手招きした。 「今日は遅かったね」  皆川はにこりと笑って、右隣に真弓を座らせた。窓際の奥が二人の指定席になりつつある。時計を見れば八時半になるところだった。 「うん、先生と話し込んじゃって」  真弓はコートを脱いで椅子の背凭れに掛けた。 「今日、何か食べて帰りましょうよ」 「いいねえ。何食べようかな」 「じゃあ、それまで頑張りましょう」  そう言って各々ヘッドマイクをつける。 「夜分すいません。森下と言いますが、康之さんはご在宅でしょうか?」  真弓は今夜一番目の契約者に電話を掛けた。 「康之?そんな人いないよ」 「でも、鈴木さんですよね」 「鈴木じゃないよ」  がちゃりと電話は切られた。こんなことは日常茶飯事だ。真弓は溜息をついて、文字を入力する。その様子を隣で見ていた皆川は無言で握りこぶしを見せて励ましていた。  真弓は気を取り直して次の契約者に電話を掛ける。藤村由乃、三十四歳。男。 「もしもし、藤村さんの御宅ですか?私、森下と申しますが」 「森下?」  男は怪訝そうな声を出した。 「由乃さんご本人ですか?」 「そうだけど…」 「ユウユウローンの森下です。お支払いが遅れているようなので」  本人と確認できたので、社名を名乗る。 「ああ、ユウユウローンね。はいはい、分かってますよ。ちゃんと払います」  藤村はいい加減な調子で言った。 「ありがとうございます。それで、ご入金はいつ頃になりますか?」 「ああ、その件なんだけど、実はさ、叔父さんが払ってくれるって」 「叔父さん、ですか」  真弓が問い返す。 「うん。俺の連帯保証人。電話番号知ってるだろ?今日は家に居ると思うから、あっちに電話してよ。じゃ、ね」 「あの、ちょ、ちょっと待って」  突然電話が切られ、真弓の声が虚しく響いた。契約内容の画面には確かに連帯保証人の名前が載っている。 藤村末吉。彼女は次に、連帯保証人の自宅番号をクリックした。
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