黒松 2

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 二月二十一日、午前十一時。  青葉区黒松の閑静な住宅地。細い路地にパトカーや警察車両が並んでいる。 「藤村末吉、六十二歳。青酸性薬物の服用による中毒死。テーブルに置いてあった飲みかけのカップから薬物が検出されました。家は玄関、窓、すべて施錠されており、エアコンと石油ストーブが付けっぱなしで、部屋は蒸し風呂状態でした。第一発見者は綿貫倫子、三十八歳。彼女は家事代行サービスのスタッフで、毎週火曜と金曜の午前十時にこちらに来ているそうです。今日も十時にこちらを訪れ、返事が無いので合鍵を使って部屋に入ったところ、被害者を発見し通報したとのことです」  県警捜査一課榎並巡査部長は、時折手帳を見ながら話した。その横で樋口警部補は無精ひげを触りながら、辺りを見渡している。 「家事代行に合鍵を渡しているのか?ずいぶん信用してるんだな」  樋口はひとりごとのように呟いた。 「ええ。綿貫はこちらに五年も通っていて気心が知れているらしく、末吉が仕事で不在の時も、家事をこなしていくそうです」 「ふうん」  と樋口は気のない返事を返した。
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