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十二畳ほどの応接間はペルシャ絨毯が敷かれ、その上にアンティークのダイニングテーブルとチェアー。壁には重厚な食器棚が一面に設えてあり、その中には彼のコレクションらしい大量の洋食器が綺麗に並べられ、テーブルには白磁の花瓶が乗っていた。
被害者は相当苦しんだらしく喉に掻き傷をつくり、ダイニングテーブルの下でうつ伏せに倒れ死んでいた。床には粉々になった食器の破片と、傾いたカップからコーヒーが滴り、吐瀉物が散乱していた。鑑識が色々な角度から部屋の写真を撮っている。
「この家の鍵は何本あるんだ」
「綿貫によると、自分と、藤村本人と、藤村の唯一の肉親である甥の由乃だと」
「由乃なんて芸者みたいな名前だな」
樋口がぼそりと呟いた。
「一緒に住んでいるのか?」
「いいえ、現在岩手県の盛岡市に住んでおります。昨晩は飲み歩いていたらしく、先程ようやく連絡が取れまして、こちらに来るのはもう少し時間が掛かりそうです」
「うむ。この割れた破片は何だ?」
樋口が白い手袋を嵌めた手で、床の破片を拾った。
「綿貫に確認したところ、食器棚に飾ってあったオールドノリタケの飾り壷ではないかとのことでした」
榎並はそう言って食器棚の空いたスペースを指差した。
「なんで割れたんだろうな?」
「さあ、僕にはさっぱり」
「自殺か他殺か、お前はどう思う?」
「樋口さんに分からないのに、僕に分かるわけないじゃないですか」
榎並はボールペンの尻で頭を掻いた。
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