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「胃の内容物は本当にコーヒーでしたか?」
有朋は写真を見つめたまま言った。
「えっ。はい。サンドウィッチ少量とコーヒーでした。それが何か?」
榎並の不思議顔を尻目に、有朋は質問を続ける。
「食器棚の中にあった飾り壷が割れていた事に関してどう思います?」
「被害者はオールドノリタケのコレクターだったようですから、最期に手元に置きたかったのではないでしょうか」
「故意に割ったのでしょうか、それとも事故で割れたのでしょうか?」
「さあ。僕にはさっぱり分かりません」
と榎並は頭を掻いた。
「…合鍵を持っていた二人には、それぞれアリバイが成立している」
有朋は呟くと背凭れに体を預け、腕組みをして天井を見上げた。
「ええ。先程も言ったように、由乃は八時半に盛岡の自宅にて、ユウユウローンの督促電話を受けています。それから市内の飲み屋をはしごして、午前一時過ぎに帰宅。目撃者も多数おります。一方、綿貫倫子は中村さつきというスタッフとペアで、その日午後九時まで八木山で家事代行の仕事をしておりました。九時半に会社へ戻り、それから会社のスタッフ数名と近所の中華料理屋へ食事に出かけております。帰宅が十一時過ぎ。これも裏が取れています」
「警察はどういう見解なのですか?」
「そうですね…。六・四ぐらいで自殺に傾いてます。でも、樋口さんが電話にこだわっていて、昼間ユウユウローンへ話を訊きに行ってきました」
「へえ、仕事してんなあ。親父」
公平は頭の後ろで指を組んで愉し気な声を出した。
「目の付け所がいいですね」
と有朋はわずかに口元を上げた。
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