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その日の午後一時、樋口警部補と榎並巡査部長は一番町にあるユウユウローンに来ていた。雑居ビルの狭いエレベーターを四階まで上る。
コールセンターは一面にオフィス机が並べられていた。十数名が頭にヘッドマイクをつけてパソコンに打ち込みながら受け答えしている。一番前に大きな机があり、そこに巨漢が座っていた。
樋口と榎並が近付くと、彼は立ち上がって頭を下げる。
「ここの責任者の小林です」
低くて深みのある声だった。
「実は、藤村末吉さんと最期にお話をされた方に話を伺いたいのですが」
榎並は警察手帳を胸ポケットに納めた。小林は表情を変えずに、部屋の奥に向かって声を掛ける。
「おーい。森下君。ちょっと」
「…はい」
窓際の奥からひとつ前の席で、若い女性が立ち上がった。ヘッドマイクを外してデスクパーテーションに引っ掛けると、細い通路をこちらへ歩いてくる。
「森下真弓です」
小柄でボーイッシュな印象を与える顔立ちだったが、今は事件のせいか表情が暗い。
樋口と榎並は小さなミーティングルームを借りて話を訊く事にした。
「申し訳ありませんが、ご協力お願い致します」
「はい」
蚊の鳴くような声で森下は頷いた。
「事件当日の話を詳しく教えて下さい」
榎並は手帳を広げ、ボールペンを片手に訊ねた。
「あの日、藤村末吉さんへ電話をすることは決まっていたのでしょうか?」
「いいえ。藤村由乃さんには掛けるつもりでしたが、末吉さんの方へは電話する予定はありませんでした」
真弓が小さな声で答える。
「では、どんな経緯で電話することになったのですか?」
真弓はその日の藤村由乃との会話を思い出した。
「まず、八時半過ぎに由乃さんの自宅へ電話して、連帯保証人である叔父さんが払ってくれるから、そっちに掛けて欲しいと言われました」
「偶然にしてはでき過ぎてますね」
樋口が突然口を開いた。
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