0人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ?」
真弓が問い返す。
「ああ、すいません。こっちの話です。確認しますが、あなたが藤村由乃に掛けた電話番号は、確かに盛岡市の彼の自宅の番号でしたか?」
樋口の質問に真弓は力強く頷いた。ショートヘアが揺れる。
「間違いなく由乃さんのご自宅です。私達の使っている架電システムは、PCの画面上をクリックして電話を掛けるので、自分で番号を押さないんです。なので間違えようがありません」
「例えば、誰かが故意に番号を書き換えることは出来ないのですか?」
「たぶん難しいと思います。契約内容の変更は、契約担当者のIDでしかログインできないので、私たちコールセンターの人間は権限がありません。ですから、パソコン画面と違う番号に架電するのは難しいと思います」
「そうですか」
樋口は無精ひげを摩った。
「刑事さん、藤村末吉さんは亡くなったんですよね」
「ええ。残念ながら」
榎並は目を伏せた。それを見た真弓は大きな瞳に涙を浮かべた。
「あの時、末吉さんは死んで支払うって言ったんです。それから倒れるような音がして。私、センター長に通報した方がいいって言ったんですよ。あの時通報してたら、もしかしたら助かっていたかもしれない…」
榎並は慌ててポケットティッシュを手渡した。
「そんな、泣かないで下さいよ。あなたのせいじゃありません」
森下を帰し、次に樋口は小林を呼んだ。
「あなたは警察に通報するなと言ったそうですね」
樋口の言葉に小林は肩を竦めた。
「語弊があります。通報するなと言ったのではなく、よくある事だから気にするなと言ったのです」
「よくある事とは?」
「刑事さんだってそうでしょう。死んでやるとか、火をつけてやるとか。人は窮地に立たされるといろんなことを言うものです。それをいちいち間に受けていたら、こっちの身が持ちません」
「まあ、そうですね」
と樋口は相槌を打つ。
「こんな商売をしていると、借金苦で自殺する人もいます。でも、止めようがないじゃないですか。もちろん、金を支払わなくていいなんて気休めも言えません。期限まで支払ってくれって言い続けるしかないんですよ」
小林は吐き捨てるように言った。
「ごもっともです」
最初のコメントを投稿しよう!