小田原 2

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「えっ?」  真弓が問い返す。 「ああ、すいません。こっちの話です。確認しますが、あなたが藤村由乃に掛けた電話番号は、確かに盛岡市の彼の自宅の番号でしたか?」  樋口の質問に真弓は力強く頷いた。ショートヘアが揺れる。 「間違いなく由乃さんのご自宅です。私達の使っている架電システムは、PCの画面上をクリックして電話を掛けるので、自分で番号を押さないんです。なので間違えようがありません」 「例えば、誰かが故意に番号を書き換えることは出来ないのですか?」 「たぶん難しいと思います。契約内容の変更は、契約担当者のIDでしかログインできないので、私たちコールセンターの人間は権限がありません。ですから、パソコン画面と違う番号に架電するのは難しいと思います」 「そうですか」  樋口は無精ひげを摩った。 「刑事さん、藤村末吉さんは亡くなったんですよね」 「ええ。残念ながら」  榎並は目を伏せた。それを見た真弓は大きな瞳に涙を浮かべた。 「あの時、末吉さんは死んで支払うって言ったんです。それから倒れるような音がして。私、センター長に通報した方がいいって言ったんですよ。あの時通報してたら、もしかしたら助かっていたかもしれない…」  榎並は慌ててポケットティッシュを手渡した。 「そんな、泣かないで下さいよ。あなたのせいじゃありません」  森下を帰し、次に樋口は小林を呼んだ。 「あなたは警察に通報するなと言ったそうですね」  樋口の言葉に小林は肩を竦めた。 「語弊があります。通報するなと言ったのではなく、よくある事だから気にするなと言ったのです」 「よくある事とは?」 「刑事さんだってそうでしょう。死んでやるとか、火をつけてやるとか。人は窮地に立たされるといろんなことを言うものです。それをいちいち間に受けていたら、こっちの身が持ちません」 「まあ、そうですね」  と樋口は相槌を打つ。 「こんな商売をしていると、借金苦で自殺する人もいます。でも、止めようがないじゃないですか。もちろん、金を支払わなくていいなんて気休めも言えません。期限まで支払ってくれって言い続けるしかないんですよ」  小林は吐き捨てるように言った。 「ごもっともです」
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