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「分かりました」
真弓はいつものようにIDを入力してログインすると、藤村由乃の自宅電話番号をクリックする。発信音が鳴り、電話が繋がる。
「もしもし。あの、藤村由乃さんの御宅ですか」
「いいえ。仁科有朋の携帯です」
ヘッドフォンから硬質な声が聞こえた。
真弓が片方の耳を外して、後ろを振り返る。
「仁科さんという方の携帯だそうです」
樋口も小林も驚きを隠せずに画面に見入った。確かに画面上のポインタは藤村由乃の自宅電話番号を差している。電話機のディスプレイにも、盛岡市の局番が出ていた。
「どうなっているんだ?」
小林が眉根を寄せる。
「では、電話を切って下さい。そして、今度は藤村末吉の自宅へ掛けて下さい」
パーテーションの向こうから公平の声が聞こえた。
「…はい」
真弓は気味が悪くなって、度々後ろを振り返りながら藤村末吉の自宅をクリックした。
数回の呼び出し音の後、「はい」と男の声が聞こえた。
「もしもし、藤村末吉さんの御宅ですか?」
「ガシャン、ガタガタ。うわああー」
「なっ、なんなのこれ!」
真弓が悲鳴を上げてヘッドマイクを外した。真弓の放り投げたヘッドマイクから何かが割れるような激しい音と悲鳴が聞こえる。樋口と小林は顔を見合わせた。
「一体、どうなっているんだ公平」
樋口は息子に詰め寄った。
「すいません。驚かせてしまいまして」
公平は鼻の頭を擦りながら立ち上がると、真弓の机の上に転がったヘッドマイクを掴み、マイクを口元に寄せた。
「榎並さんやり過ぎ、みんなビックリしているよ」
静まり返った室内にツーツーという音が響いている。公平は自分の席に戻って、電話のフックを押した。不通音が止まる。
公平はその場にいた全員に向かって、まるでマジシャンのように両手を広げて見せた。
「これが種明かしです」
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