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「つまり、どういうことなんだこれは…」
樋口警部補が唸った。
するとドアが開いて、黒いダッフルコートの少年がスマートフォンを弄りながら部屋へ入ってくる。顔を上げると漆黒の前髪から涼しげな双眸が現れた。
「成功、成功」
公平が親指を立てた。有朋は口元を僅かに上げた。
「いったいどうなってるのかね、有朋君」
樋口警部補は顎を摩りながら公平と有朋を交互に見た。
「電話機に付けるヘッドマイクを交換したのです。森下さんの電話機には隣の皆川晴香のヘッドマイク。皆川の電話機には森下さんのヘッドマイクが繋がっていた。そうすることで、皆川の掛けた電話に森下さんが出ることになります。事件当日、最初の電話で森下さんは「鈴木康之」宅に掛けたのに、「鈴木じゃない」と電話を切られました。彼女は居留守を使われたと思ったようですが、そうではなく、全く違う契約者へ電話していたのです」
「なるほど」
樋口警部補は頷いた。有朋は淡々とした調子で話し続ける。
「はじめに森下さんは藤村由乃と話し、次に連帯保証人である末吉さんに電話番号した。しかし、実際はどちらも皆川が藤村由乃の番号に掛けていたのです」
「では、末吉さんが死んで支払うと言った声も」
「盛岡の自宅で由乃が装ったものです」
そこで話を切った有朋は、樋口警部補の前に立った。
「樋口警部補。大変差し出がましいのですが、出来れば続きは藤村邸でお話したいのですが」
「今は警察のメンツより、事件解決が最優先だぜ。親父」
「うむ、分かってる」
樋口は唇を一文字に閉じて、しぶしぶ頷いた。
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