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その夜遅く、藤村末吉の自宅に関係者が呼び出された。仁科有朋は重厚な食器棚に並べられた洋食器を順番に眺めていた。
「僕が最初に現場の写真を見ておかしいと思ったのは、テーブルにあった一客のカップでした」
静かに響く声に、全員が耳を凝らしている。
「これがそうです」
有朋が差し出したのは、写真に写っていた物と同じく口が広くて浅く、全体にブルーの小花を散らした華奢なカップとソーサーだった。
「このカップにコーヒーが入れてありました。皆さん、どう思いますか?」
有朋は一人一人の顔を眺める。樋口警部補、榎並巡査部長、藤村由乃、綿貫倫子、そして樋口公平。
誰も言葉を発しないのを見て、有朋は口を開いた。
「これはティー碗皿です。洋食器に造詣の深かった末吉さんが、このカップでコーヒーを飲む訳がありません」
「ティー碗皿?」
みんな口々に動揺を隠せなかった。
「ええ。紅茶用のカップの事です。口が広く浅いでしょう。紅茶の色を綺麗に見せる為のカップです。逆にコーヒーは香りを楽しめ、冷めにくくする為に筒状で口が狭いのが特徴です」
有朋は先程のブルーの小花のカップを食器棚に戻し、今度は背の高い口の狭いカップを取り出した。
「これはノリタケのヘミングウェイ、アメリカン碗皿です。背が高く口が狭い形状が特徴です。このように、洋食器は種類が豊富で用途別に名称があります。例えば洋皿なら直径ごとに、サービス皿、ディナー皿、ケーキ皿、パン皿。カップもコーヒー碗皿、デミタス碗皿、ティー碗皿など」
「すごいですねえ」
榎並が感心したような声を上げた。綿貫倫子もしきりに頷いている。
「それに合わせて、カトラリーも違います。デミタススプーン、コーヒースプーン、ミドルスプーン、ティースプーン。これらもそれぞれ大きさが違います。つまり、テーブルに載せられたカップは…」
「偽装だったって訳だ」
有朋の後を公平が繋いだ。
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