黒松 3

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「由乃さん、あなたが藤村末吉さんを毒殺したのです」  有朋は淡々とそう言って、由乃を見た。しかし指摘された当人は動揺することもなく、不敵な笑みを浮かべていた。 「俺が殺したって?まさか。俺は事件当日、盛岡に居たんだぜ。アリバイだってある」  由乃は大袈裟に肩を竦めて有朋を見た。 「その件に関して、先程検証してきました。電話のアリバイは、皆川晴香とあなたの偽装工作。NTTの通話記録を調べればすぐに分かります」 「馬鹿な。俺は皆川なんて女知らねえ」  由乃は吐き捨てるように言った。 「分かりました。では今から、事件当日の再現をします」  有朋はゆっくりとダイニングテーブルへ近付いた。 「由乃さん。あなたは事件の日、この藤村末吉さん宅へ来た。あなたは初めから彼を殺すつもりで毒物を持ち込んだ。末吉さんはコーヒーを淹れ、あなたと自分の為に二客分のカップをテーブルに置く」 「二客ですか?」  榎並が訊き返した。 「はい。コーヒーは末吉さんが自ら淹れたのでしょう。由乃さんは、隙を見て末吉さんのコーヒーに毒物を混入させた。毒物入のコーヒーを飲んだ末吉さんは、その直後苦しみだして、ダイニングテーブルに突っ伏した。苦しみで体を左右に激しく揺さぶり、腕を大きく動かして、テーブルの上にあった二客のコーヒーカップを床に落とし割る。由乃さんは割れてしまった二客の碗皿の破片を回収し、一客分のカップを用意して残ったコーヒーに毒物を入れ、そのカップを末吉さんに握らせたり口を付けさせたりしてあたかもそのカップで飲んだように偽装工作を施した」 「なぜそんなことをしたのですか?」  榎並は有朋に訊ねた。 「自殺を決定付けたかった。しかし、それが蛇足でした」  ダイニングテーブルの天板を指でなぞりながら有朋は言った。
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