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有朋はじっと唇を噛み締めている由乃を見た。
「末吉さんは薬が致死量に満たず、ずいぶん長く苦しみました。首を掻き毟り、床を這いつくばって死の苦しみと戦っていた。あなたが床の破片を拾い、ティーカップを出して偽装工作する様子を、朦朧とした意識の中で見ていたんです。そしてすべてが分かった。あなたは動かなくなった末吉さんを見て、部屋を後にした。しかし、あなたが部屋を出た後、末吉さんは床に転がりながら、あなたが拾い忘れた破片を見つけたんです。末吉さんは最期の力を振り絞って、食器棚まで歩き、飾り壷をその破片の上に投げつけ粉々に砕きました。壷を割ることで、あなたが拾い忘れた破片をカモフラージュしようとしたのです」
「なんってこった」
樋口警部補は手のひらで口を覆った。榎並巡査部長も口を開いたまま驚きを隠せない。捜査員に押さえつけられていた由乃はまだ事実を把握できていないような顔をしていた。
「どういうことだよ、それ」
由乃は呻くように言った。
「あなたを庇ったんです。末吉さんは自ら自殺偽装に加担した訳です」
有朋は諭すようにゆっくりと言った。腕組みして考え込んでいた公平が唸る。
「でもさ、有朋。だったらテーブルの花瓶でも良かったんじゃないか」
公平が訊ねると、有朋は背の高い友人に向かって首を横に振った。
「素材が違うんだよ」
「素材?」
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