黒松 3

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「そう。割れた二客のコーヒー碗皿は、ボーンチャイナだったんだ」 「ボーンチャイナ?」  公平が繰り返す。 「うん。その昔、陶磁器が海を渡ってヨーロッパに行った名残で、陶磁器をチャイナと呼ぶ。ボーンは骨。牛の骨灰を混ぜて焼いた白磁器で、ヨーロッパでは白磁器を焼く材料が入手困難だった為に骨灰で代用したんだ。ボーンチャイナは例外もあるが概ねクリーム色で、見る人が見ればすぐに分かる。末吉さんは洋食器への造詣が深いばかりに、割れた碗皿と同じ素材の壷をわざと割って、目くらましにしようとしたのさ」  有朋は言いながら食器棚の前に立った。 「由乃さん、僕には見えますよ。その時の状況が…」  そう言って背を向けると、巨大な食器棚のガラス扉を開けた。その場にいた全員が固唾を呑んで見守る。有朋は手を奥へ伸ばし、一客の碗皿を取り出した。  ピンクとブルーの花をあしらった筒状の小ぶりなカップに、柔らかなグリーンのソーサー。もうすぐやってくる春を待ちわびるような優しい色使いの碗皿だった。 「由乃さん、見てください。あなたがここへ来た時に、末吉さんはこのカップにコーヒーを注いだのではありませんか?」  有朋は碗皿を手に持って、由乃の前に差し出した。光に翳すと、確かに素地が白磁の花瓶よりもクリーム色がかって見える。  由乃は驚愕の表情で目を見開いた。 「このカップは今三客分しかありません。一客でも、ペアでもなく、三客。元は五客あったと考えるのが自然です。しかし、もっと重要なメッセージがあります」 「………」 「これはノリタケのヨシノというカップです。あなたと同じ名前です」  由乃は膝から崩れ落ちた。
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