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「恋とはまた珍しいねえ」 友人は恋話の類が大好きな性格。人付き合いはうまく、話し上手。ずっと憧れている存在。 私はまだ、失ったものがない。すべて持っているわけではないけれど、充分持っている。でもまだ、欲しいものがあった。 「どうしても、ねえ」 何かと交換なんてできないようなもの。 どうしようもないもの。 なにかすることがあるのなら、私は頑張れる。 …その自信はちょっとない。 「思いっきりアタックはあんたらしくないから、まずは普段通りだね」 背中を押してくれる友人は、いつもお姉さんみたいだ。 「まずは帰り路だよ、頑張って。いつも通りね」 放課後に声をかけて、一緒に帰ることはよくあった。無口な私たちは、いつも思っていることを言えない。 でも、通じ合えている気がする。妄想。 帰りのHRが終わると、私は声をかけた。 わかりました、と敬語で返事をしてくるところも、彼らしい。 2人でこの道を帰るときは、道路に咲いた花も、家々の庭の木も、こっちを向いて手を振ってくれている気がする。 ほら、花が笑ってる。 無言だけれど、お互いのことはわかると思う。 初めて会った時から、心で会話できる気がした。また妄想。 帰り道、さりげなく車側を歩く彼。 背は私より少し大きいくらい。私は彼の、声が好き。 「クレープでも、食べて行きますか」 彼の声は透き通っていて、消えちゃいそう。でもとてもあたたかい。 私はうなずいて、彼のよこを歩いていく。 お店でひとりひとつクレープを買ったらまた歩き出す。 本当のカップルならここで喋るんだろうけど、私たちは喋らない。 そしてまだ、カップルではない。 甘いものが大好き。それは私も、彼も。 帰り道があと1キロあればいいのに。ふたりなら、ずっと歩ける。 「じゃあ、ここで」 私はまた、うなずく。彼はここで、反対側を歩いて帰るから、家まで一緒には帰れない。
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