第十六章 破滅へ導く救いの手

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ーーー☆ーーー 死者を支配する女王。 エインヘリヤルという死者の軍勢を使役するミルクは統一政府、反乱勢力、新生反乱軍が激突する戦場において、己の『趣味』に没頭していた。 「チッ。統一政府は単体最強組織だが、反乱勢力と新生反乱軍の混成部隊が相手じゃどうなるか分からねえってのに。脳筋どもが真っ向勝負なんか挑みやがって!!」 蒼炎くるみの優しさにより両足をへし折られ、満足に身動きを取ることもできなくなった東城大和が自室のベッド近くの床に転がっていた。 その視線の先にはエインヘリヤルの一人である少女型ゾンビ。そしてミルクが遠隔地より具現した映像があった。 戦争の光景の具現化。 それもミルクが見ていない光景さえも正確に映し出していた。 これは『趣味』。 つまりは東城大和を堕落させるための下拵え。 映像はミルクの一存で好きな場面を映し出すことができる。つまりミルクのお陰で戦争に勝てたと印象操作することも可能だということ。 そのためにミルクは戦争に参加していた。 『趣味』を効率的に進めるために怪物蠢く戦場に立つくらいには特異な精神構造をしていた。 そんなミルクの『戦法』はというと……、 「くそっ。あの爆発、魔法具現回路を破壊す……っ!!」 エインヘリヤルより浮かび上がる魂たちが互いを喰らい合うように混ざり合い、局所的な爆発を引き起こす。魔力の禁忌。魔法具現回路の破壊。それ『だけ』ではない。 「落ち着いて! 入れ物であるゾンビどもに魔法は使えない!! きちんと対処すれば……!!」 「確かに腐敗臭を漂わせているけど、人のことをゾンビ扱いだなんて酷すぎないかい?」 「っ!? こいつ、生きているの!?」 エインヘリヤルの中に生者を混ぜる。 ゾンビたちの弱さを逆手に取る。 死者だと思っていたら生者で、生者だと思っていたら死者。常に全力攻撃を仕掛けていれば自ずと隙ができるし、ゾンビを殺す程度の魔法を生者に仕掛ければ返す刃で殺される。 そもそもゾンビどもは弱者ではあるが、魂が飛び出し、混ざり合い、魔力の禁忌による爆発を撒き散らすリスクがある。生者とはまた違った脅威である。 二種類の手札を使い分けることで敵対者が本領を発揮する前に殺す。それだけではないが、それだけで雑兵どもは封殺できた。 「わふう」 『趣味』が東城大和を侵食する。 ミルクの力を過剰評価し、依存する下拵えが整っていく。
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