第1章

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「私はこの世界を変えれなかったけど……。せめて、あなただけでも救いたい」 ひんやりとした岩肌の地下牢。室内は蝋燭の炎で薄暗く照らされている。湿った牢の中に似合わない綺麗な青のドレスを着た女性は、柵の外から自身にナイフを向ける幼い子供に優しく言った。 その言葉に子供は頭を傾け、不思議そうな表情をする。 「どうして?」 「あなたは本当は優しいから」 柵の隙間から白く細い手が伸ばし、ナイフを握る子供の手を優しく包んだ。子供は驚き一瞬触れた手を払おうとするが、常に訓練で触る武器とは違う手から感じる暖かさが心地よく無意識に彼女の手を受け入れた。 不思議な感覚に脳が回らない。殺す事こそが救いなはずなのに拒む感情が生まれる。 「この世界に必要のない人間なんていない。一人、孤独だと思わないで。必ずあなたを必要とする人がいるから」 「そんなの知らないよ。必要とする人って誰なの……?」 地下のドアが大きな音を立てて子供の言葉を消し、黒と金のラインがはいった軍服を着た大人達が入ってきた。 「手を離せさ! さあ、審判の時間だ」 柵から伸びる手を無理やり剥がし、大人達は牢の柵を開けて女性の両手に手錠をかけた。女性は子供の前を去りぎる時、周り男性達に聞こえないよう口だけを動かして部屋から出て行った。 誰もいない地下牢の部屋。半開したドアから隙間風が吹き、壁の窪みに置いた蝋燭の火が揺れ、子供の影が揺れる。 子供は握られたナイフを持つ手をじっと見つめた。 「お願いね……か」 そう呟き、子供は半開したドアに視線を変えた。 その言葉の意味が何なのか、さっきの女性がまたドアを開けて出てきて答えを教えてこないかと思って見続けたが、聞こえてくるのは風の音と汚い笑い声をした男達の声だった。
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