第1章

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 真っ赤な塗装が一段と暑苦しい自動販売機が僕に買ってと囁いているような気がする。これは幻聴だ。あまりの暑さと懐の温かさに頭が熱暴走を起こしているのだ。早いところ目的のものを買って帰ろう。残ったお金が消えてなくなるわけじゃないんだから。  確かにいろいろなものは買えるけど、やっぱり最初は欲しかったものを買うべきだろう。一ヶ月前にお金が入ったら買うと決めていた最新型のゲームハード。これだ、このために僕はどんな苦労も我慢してきたのだ。  大型電器店のエスカレーターの右側を駆け上がり、予約レシートを店員に見せると大きな箱が僕の前に姿を現す。 「お支払い方法は?」 「もちろん現金で」  ぱさりとカルトンにお金を置くと、店員がそれをしっかり数えてお釣りと保証書を返してくれる。これでお前は僕のものだ。早速帰って一緒に買ったゲームを遊びつくしてやる。これだけのものを買ってもまだ僕の懐は温かい。なんだか大金持ちになった気分だ。いや実際に僕は今、大金持ちなんだ。  電器店を出ると長い長い夏の日もようやく地平線に消えようとしている頃だった。意外と時間がかかったものだな。まぁ買い物には時間がかかるものだし、仕方がないんだけどね。充実感のある重さを腕に感じながら、僕はスキップしたくなるような気持ちで家路を急いだ。
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