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「って言っても、黒岩には関係なかったな。可愛い彼女いるんだろ?有岡から──」
そう言っていた牧原の顔が、ギョッとする。
俺がまた目を潤ませて牧原を見ていたからだ。
──ヒグマのウルウル視線。
「な、ど、どうしたんだよ?」
驚く余り、牧原はたじろぎながら言った。
「……彼女とは別れたんだよ」
「あっ………」
今度は言葉を詰まらせた。
ふたりの間にシーンとした空気が流れる。
居酒屋なので周りは騒がしいのだが、それすら遠くの方で聞こえている感覚になる。
「飲め」
牧原が出した答えは、「お酒」だった。
俺が飲んでいたグラスに、並々とビールを注ぐ。
「女なんて忘れろ。飲んで忘れちゃえばいいんだよ」
「……そんなもんかぁ?」
何処か腑に落ちない俺。
「そんなもんだよ。今日は黒岩の分も奢ってやるから、飲めよ」
─奢り!?
非常に魅力的なその言葉に、一瞬目が輝く。
が、牧原だって金に余裕がある訳じゃない。
すぐに俺は断りを入れる。
「いいよ、奢りだなんて。ちゃんと俺も金は出すよ。それに今日は新しい子の歓迎会がメインだろ?」
そう言い枝豆を口に放り込むと、牧原はグラスをドンッと音を鳴らし机の上に置いた。
「お前は気にするな」
鬼のような形相の牧原に、今度は俺がたじろいだ。
そして牧原に勧められるがまま、お酒を飲み出した。
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