第1章

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一億を手に入れた。 途方もない交換の日々だったけれど、念願のお金持ちになり今は感無量だ。 しかし、この気持ちは何だろう。 夢が叶うということは夢を失うということになる。 私はなぜお金持ちになりたかったのだろう? 「太郎様、お客様がお見えです」 「通してくれ」 障子を開け入って来たのは犬が指定した場所を掘ってみたら財宝が出てきて大金持ちになったじいさんだった。 「太郎さん、はじめまして。花咲と申しますじゃ」 このじいさん花咲という名前だったのか。 孫が銀行に勤めていそうな名前だな。 そんなことを思っていると花咲のじいさんは突然涙を流し出した。 「和良四部(わらしべ)さん、ワシはこの生活に疲れた。元の暮らしに戻りたいんじゃ」 涙ながらに切々と語るじいさんはオレの未来の姿に見えた。 「使えきれない財産を持ち、連日のように銀行や証券会社がうちの商品を買えといいよってくる。どこから嗅ぎつけたのか、ツボを買えとか寄付してくださいとか怪しい連中まで集まる始末。もうこんな生活こりごりなんじゃ」 じいさんは本当に困っているようだった。だが、オレにどうしろというのだ? 「実はあなたを調査させてもらいましたのじゃ」 「最近誰かに見られているような気がしていたがそういうことか」 金を持つと色んな人間に注目される。貧乏な時には分からなかった金持ちの苦労だ。 「不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありません。ワシはどうしても昔の慎ましい生活に戻りたくて貧乏神にとり憑かれている人がいないか探していたのですじゃ」 このじいさん、マジなのかボケているのか分からない。 だが、真剣な眼差しを見て考えを改めた。 ちゃんと話を聞こうと。 「調査の結果、ある村に働いても働いても貧乏な若者がいて村の人達は貧乏神が憑いているに違いないと噂する人物を発見したのですじゃ」 「それがオレだったわけだ」 「そうですじゃ。情報を頼りにあんたを探してようやくここにたどり着いた。じゃが、あんたは貧乏神どころか福の神が憑いとるじゃないか。じゃから、もう望みが絶たれたと思い涙が溢れたのですじゃ」 懐からハンカチを取り出し涙を拭い、ついでに鼻もチーンという音を出しかんでいた。
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