~ 泥塗り合戦 ~

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「高田さん、今日、時間ある? 俺の最初のお客さんが店出したんだ。うちの営業の奴ら連れて行くんだけど、男ばっかじゃ・・・華が欲しいし、ちょっと付き合ってよ。」 ここは石田所長が選りすぐりの営業部隊。いつも石田所長に言われるが、他の方の話も聞いてみたかった私は、その飲み会に参加させて貰うことにした。 「すぐに結果に繋がることなんて、石田所長も、会社も、そんなこと求めてないんだよ。爆弾みたいに時々すっごい成績出す奴より、成績なんて小さい数字でも、コンスタントに出す奴の方が、凄いんだし、まぐれの爆弾落とす部下より、努力の空振りする部下の方が、助けてあげたくなるんだよ。」 部下を前に、杉浦所長は堂々とそう話した。 石田所長が毛嫌いしている他所長さん、ち ょっと緊張したけれど、今の私は、石田所長から少し、離れたかったのかもしれない。 今日の飲み会は、ご家庭の都合で来られなかった方もみえる為、初めて会う営業さんは二人だった。 二人はまだ入社2年目、営業成績も、それほど出せているわけでもないが、杉浦所長が可愛がり、こうやって時々ご飯に連れて行ったりしているらしい。 「杉浦くんは、人間味ある営業するからぁ~」 和服姿の女将さんが座敷の入り口で話す。 聞けば、女将さんのご実家が、杉浦所長の初成績。 杉浦所長は、夏の間に何度も空き家となったご実家のお庭の草むしりを手伝いながら女将さんと話しをし、会話だけで1件獲得したそうだ。 「特に、改築の話なんて聞かなかったわ。ただ、草むしりに来ただけ、みたいな顔してね・・・。 」 女将さんは品良く笑い、照れた杉浦所長を置いて座敷を後にした。
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