~ 大人になるということ ~

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「突然誘ってしまって、申し訳なかったわ。」 その日、何か決まった予定が入っていた訳でもなかった私は、定時に仕事を終わらせ、部長から渡されたガードを頼りに、最寄り駅ガード下にあるお店に向かった。 既に着いていた部長がお店の前で迎えてくれた。 部長の後ろからお店に入ると、そこは、ガード下とは思えない、落ち着いた雰囲気の小料理屋さんといった雰囲気だった。 入り口では着物姿の女将さんが出迎えて下さった。 「いえ、私、特に予定ありませんでしたから・・・。それに、こんなに素敵なお店がガード下にあるなんて、全然知りませんでした。教えて頂いてありがとうございます。」 そう言って、届いたばかりの日本酒を部長のお猪口にお酌する。 「高田さんの入社当時から、ずっと一 緒に働いてきたけど、二人で飲むのは初めてね。」 いつもの部長とは雰囲気が全く違うので、少し戸惑いつつ、お酌を戴きながら、黙って話を聞いていた。 「実は今・・・隣県に、新しい営業所を作っているの。来月には完成するわ。私、来月からそこの所長として異動になるの。」 手に持ったお猪口の中身をクイッと一口で飲んだ部長から、次の瞬間、信じられない言葉が飛び出した・・・ 「高田さん、あなたを、営業として、新しい事務所に連れて行きたいの。」
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